いのサンデー ~ なんとなく、クリスタル の巻~

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┃◆┃ いのサンデー ~ なんとなく、クリスタル の巻~
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  こんにちは、いの です。

  はじめて鉱石というものを認識したのは、小学校低学年のころだったと思う。
  子ども向けの科学雑誌の付録に付いていた紫水晶(アメシスト)。それを
  電子レンジで加熱して色が変わるのを確かめる、という小さな実験をした。
  実験結果がどうなったかなどはまるで覚えていないが、紫水晶という
  神秘的な名前がやけに印象的で、どうにも忘れられなかった。

  月日は流れ、私が鉱石と再会したのはごく最近のことだ。鉱石集めを趣味に
  している友人に連れられて、東京の古本屋街を散策していたときのこと。
  なぜか古本といっしょに売られていた淡い黄色の鉱石が目に留まり、気付けば
  買い求めていた。
  学生時代に理数系全般を苦手としていた私にとって、その成分は?特徴は?
  という話になると途端にお手上げなのだが、あれ以来、見た目が気に入った
  ものに出会うとついつい手を伸ばしてしまうようになった。気が向くと
  ふらりとショップに立ち寄ってみたり、前述の友人からコレクションの一部を
  分けてもらったり、とじわじわと部屋の一角に鉱石エリアが出来つつある。

  鉱石のなかには美しく研磨され、パワーストーンとして売られているものも
  あるが、どちらかといえばごつごつといびつな形をした“鉱石”と呼ぶのが
  しっくりくるような見た目のものに惹かれることが多い。
  趣味として集めているだけなので、特に明確なルールはないのだが、いまは
  できるだけいろいろな色の鉱石を並べてみたくて、黄色、青、ピンク、緑、
  というようにバリエーションを増やしているところだ。

  こんなにわか鉱石マニアの私にとって、今年一番うれしかった出来事は
  先日訪れたフィンランドのタンペレという街で起きた。
  観光客におなじみのムーミン谷博物館を見学し終えた私の目に飛び込んで
  きたのは、隣にあるもうひとつの博物館。その名も鉱石博物館。
  はるか異国の地でこんな素敵な博物館に出会えるとは、と感動した私は
  問答無用で友人を引き連れて中に飛び込み、そう広くないスペースに
  みっしりと詰め込まれた世界の鉱石の姿に小躍りした。
  冷静になって考えれば、日本でもたびたび開催されているミネラルショー
  (化石・鉱物・隕石などの大展示即売会)の方がよほど規模が大きく、
  種類も豊富だったと思う。しかし、北欧のけして大きくはない町で偶然に
  出くわしたこの博物館は、私にとってきらきらと輝く宝石箱のように見えた。

  にぎわう隣のムーミン谷とは対照的に、鉱石博物館にいる客は私と友人の
  2人のみ。受付に座っていたプラチナブロンドに薄い青色の瞳をした
  フィンランド美人は丁寧に館内の説明をし、最後にこう言って微笑んだ。

  「館内は自由に写真を撮っていいのよ」

  一眼レフに指をかけ、うずうずしていた私の胸中を見透かしたような
  その言葉に甘えて、私は博物館の隅から隅までを心ゆくまで堪能し、カメラに
  おさめ、ついでにどうしても我慢できなくて物販コーナーにあった鉱石の
  なかの1つを、自分と友人用のお土産として選び抜いた。
  まるでミカンのように、おいしそうなオレンジ色をしていたその鉱石の名前を
  さらさらと紙に書いて、青い目の彼女はそれはそれは丁寧に包んでくれた。
  おかげでどこも欠けることなく日本に到着し、いまは私の部屋の片隅で
  相変わらずおいしそうな色をしている。

  また行きたい、と思ってもそう簡単に行ける距離ではないが、そう思える
  場所が遠い北の国にひっそりと存在していることを考えると、なんだか
  とてもしあわせなことに思えた。
  いつかまた、あの小さな博物館を訪れることがあったら、今度はどんな色の
  鉱石を連れて帰ろうか。

  それでは、また来週。